今回のレビューはアトラス×バニラウェアの強力タッグがお送りする
十三機兵防衛圏(PS4)です。
少年少女が機兵と呼ばれる巨大ロボットに乗り込み怪獣と戦うという今となってはあまりお目にかかれないストーリー。
ワクワクしたなら隠さないで買いに走りましょう。
ストーリーに言及することがそのままネタバレにつながるためそのあたりは下のほうに記述してあります。まだネタバレしたくない方はそのあたりで退避して下さい。
考察のような大掛かりなことはしません。そのあたりは職人諸兄にお任せします。
■どんなゲーム?
ジャンルはシミュレーションアドベンチャーとなっており、以下の3パートで構成されています。
・追想編
様々な時代で青春を謳歌する少年少女の群像劇を楽しむアドベンチャーパート
本タイトルのメインパートになります。
・崩壊編
簡単操作で派手な戦闘が楽しめるシミュレーションパート
物語を読み進めるのに疲れた時にリフレッシュできます。
・究明編
ゲーム性はありません。アーカイブの閲覧や既読イベントの読み返しができます。
やや複雑な本作を理解するには目を通す必要があるのですが読むタイミングに困る。
グラフィックは素晴らしく2Dゲームながらライティングにも凝っていて唯一無二のゲーム体験ができます。ビジュアルでピンときたら買うしかありません。
ゲームという媒体で展開されるためPSの名作(迷作?)「ガンパレードマーチ」が想起されますが、どちらかと言うと「ぼくらの」とかの方が近いかもしれません。そのあたりは後ほど触れます。
時代、場所、人物が複雑に交差するアドベンチャーパートは時系列もバラバラで初めのうちは混乱することになると思いますが描写自体は丁寧でありアーカイブも充実しているためだんだん全貌が明らかになる快感があります。
13人いるキャラクターの誰の物語から進めるかはプレイヤーに委ねられているため文字通り自分だけのストーリーが展開します。なので見る順番によっては衝撃の展開がよくわからずにスルーしかできなかったり、先の展開がわかってしまっていたりという事態が発生しますがそれも面白さの一つです。
私のお気に入りはおっとりミワちゃん。メインキャラでなかったと判明した時は残念だったけどサブキャラだから光っていたのかもしれない。
メインキャラでは生足が眩しいなっちゃんと絵から出てきたような昭和スタイルの慶太郎君がいい味出してます。もちろん他のキャラも魅力的ですが稔二君はいつまでもホームから出られなかったので少し疲れました...。
またゲーム的な特徴としてクラウドシンクというシステムが搭載されています。
これは物語の中で手に入れたキーワードを会話の中でぶつけることで新たな展開に繋がっていくものです。能動的に会話してる感がありアドベンチャーパートを単なる読み物ではなくゲームとして演出することに成功しています。
このように色々魅力的な要素があるのですが、ゲーム開始時点では既に戦闘が始まっているため最初は状況もわからず言われるがままに敵を撃退するしかありません。
アドベンチャーパートでも最初からきな臭い環境に身を置いているキャラとほのぼの学生生活を楽しんでいるキャラの落差が大きく序盤は特に後者の割合が大きいため少々やきもきしました。関係性もまだわからないため掛け合いにも疎外感を感じてしまいます。
やや長い導入が終われば物語を進めるも戦闘を楽しむも自由になるため物語を進めるのに疲れたら戦闘パート、またその逆という感じで自分のペースで進められます。とはいえ序盤の2~3時間は???状態になるかと思います。ここは若干残念ポイント。
・戦闘シミュレーションパート
本作の戦闘パートは機兵を操って戦うリアルタイムシミュレーションになっています。それほど難しいことはなく、いかに効率的にプチプチを潰すかのように攻撃するかを考える爽快感があります。
進行はリアルタイムですが機兵に指示を出す時は止まるため落ち着いて考えることができます。
機兵は世代ごとに特徴が分かれており、
・第一世代
殴るのが得意。直接対空攻撃は出来ないがEMPやフレアなど重要な対空兵装も多数装備している。手にした削岩機のようなものでアーマー付きエネミーを削るのがお仕事。
・第二世代
タレットやシールドの設置で味方の援護が可能。作中では万能型とされているが器用貧乏感あり。デコイ設置要員として運用するのが良さそう。
・第三世代
豊富な長距離攻撃を持つ攻撃の要。長距離、範囲、対アーマー何でも動かずに対応できるものぐさ大名。他の世代がせっせとデコイやファンネル吐くのに忙しい中ちゃんと攻撃してる機兵。
・第四世代
空が飛べるので地形の影響を受けないが低難易度ではファンネル展開しとけば何もしなくても勝てるので意味なかった。
これらの特徴を持つ機兵から最大6機選んで出撃します。選ばれなかったメンバーは防衛メンバーとしてそれぞれの武装で援護してくれます。
機兵を動かすのには脳みそに負荷がかかるため連続出撃はできず、メンバーのローテーションを考えながら戦います。仲良しさんには特殊なスキルが発動したりするので相性も重要。
敵も長距離型や自爆型など様々なタイプがいるためそれに合わせた戦い方が求められます。ただ敵の数が多く戦場のグラフィックは一目で敵の種類がわかり辛いものになっているため自爆型を見逃してしまったり効果のない攻撃をしてしまったり…ということがたまにあります。また戦闘中機兵のカットインなどはないためロボットを眺めたい勢には少々物足りません。兵装選択時にはワイプ表示されるのでこれを使えばよかったのではと思うのですがテンポも悪くなりそうだし何か事情があったのでしょう。
戦闘自体は過度な期待は禁物ですがお手軽に派手な戦いが楽しめるので私は好きです。高難度では普通に難しくゴリ押しではクリアできないため歯ごたえも十分かと思います。
次はアドベンチャーパートについて記載します。
ネタバレが嫌な方はここでそっ閉じしてください。本作はストーリーがとても魅力的で二転三転するため未プレイの方は自分でプレイされることをお勧めします。
■アドベンチャーパート
前述したとおり13人の少年少女を切り替えて物語の謎を追っていきます。
物語が始まると同時に機兵に乗り込む少年少女たち...どうも彼らも状況を完全に把握しているわけではないということと何故か全裸で搭乗していることしかわかりません。
全裸で搭乗の理由に関しては現実の肉体が眠っているポッド=機兵のコクピットなためだろうか…と思いましたが劇中では明記されていなかったと思います。登場人物も五百里以外特に疑問に思っていないようでそれ以降言及されません。全裸で搭乗はお約束なのでそういうノリで進むんだなーと思いました。今時貴重ですよこれは。
そんな感じで異星人、タイムリープ、ロボット、植民地を探しての恒星移動+アイドルの歌などこれでもかとSF要素を詰め込んできます。ホラー要素もちょっとあり嬉しい。他のキャラクターから芝くんが見えないことを知ったときはぞくっとしました。ああいうの好き。
最初はボーイミーツガールな宇宙怪獣ロボットバトルものでタイムリープ要素も入ってくるんだなーと思いましたが最終的にはマトリックスで愛おぼえていますかな物語でした。何を言っているのかわからねえと思うが…(略)
人物の中身が入れ変わっていたりしてちょっと付いていけない箇所もあったりしたのですが、ここまで詰め込んだSFは久々で初めて(プレイした人にはわかってもらえるはず)だったので満足感は高いです。
ゲームが終わって残念だと思う気持ちは久々。
メインとなる時代は1980年代のためドンピシャ世代には懐かしく知らない世代でも古き良き日本として楽しめると思います。そう考えると平成って特に特徴無い時代なんですかね...平成ノスタルジーみたいなゲームが出たときどんなものになるか楽しみです。
ゲーム開始時の時点で1980年代以外は滅んでいるため他の時代はほぼ廃墟の描写しかありません。まあこれはこれで序盤のワクワク感を演出してくれるのでよし。
私が好きなシーンは深夜のテレビを通じて網口君と因幡が話すとこですね。部屋の雰囲気と合わさってめっちゃ昔のアニメっぽい感じがします。
登場人物も一見多いのですが最終的に15人+αに集約されるというのがすごいです。
ただ正確には遺伝子が同じなだけでタイムリープもミスリードなので同一人物だと思ってしまうと混乱しますね。遺伝子は同じでも名前も性格も選ぶ道も違うのでもう別人だと思ったほうがいいです。
そのせいで混乱してしまったのが和泉十郎と森村先生。
和泉、森村が鞍部、冬坂の将来の姿なんだと思い込むものの実際には別人なためいまいち納得感が無いまま最後まで行ってしまいました。
クリア後に整理して理解するまでは大人Verの行動理念がわからずなんか悟ったような言動・行動でまあ最終的には味方なんだろうけど…という感じで最後の教室のシーンもよかったねー?という感じでした。
盛り上がりどころだったのに…。
死んだと思われた人物が実は生きていた…という展開は意外に無かったのですが(逆にてんこ盛りだった?捉え方次第でしょうか)その代わりに時代の入れ替わり+強くてニューゲームの要素があるため最終的にその人物がどうなるのかを把握できていなかったように思えます。
森村先生は関ケ原編の序盤で死んでいますがその他のシーンでは登場頻度が高く戦争開始時に死んでいるというのもあまりピンときていませんでした。アーカイブで見ると十郎(1周前)とかも個別で設けられているので整理できるのですがプレイ中は突っ走ったので…。
とりあえずストーリーをまとめると
・地球がナノマシン汚染で滅びる ←緒方の親父のせい
・遺伝子を乗せた宇宙船で旅立つ。主人公たちは培養ポッドの中でマトリックス。
そのせいで現実で覚醒できない ←東雲オリジナルのせい
・何度も繰り返すうちに環境を作っている機械自体に限界が来る。
・今回が最後のチャンス
基本的には情操教育を完了させて現実世界に帰還するためにダイモスをなんとかしないといけないということでいいと思いますが、登場人物のアプローチが違いすぎてわからなかったです。思わせぶりなことをしながらも結局マトリクス内の状況でしか行動していなかった井田鉄也なんかの存在も本筋を掴むノイズになりました。いや、全然いいんですけど。
ダイモスの襲来も東雲先輩オリジナルのセカイ系ヤンデレムーブによってもたらされたものですが、現在の東雲先輩は関係無いため黒幕不在のまま終わってしまった感も無くはないですね。どうも緒方の親父が悪代官っぽいのですが唐突に登場して退場するため悪オーラが足りない。郷登先輩オリジナルのほうが悪っぽい。
最終決戦も森村博士が裏技で助けてくれたのでちょっと拍子抜け感あり。
個人的には激戦で一人倒れ二人倒れもう駄目か...となったときに歌が聞こえて...とかのベタにヒロイックなほうが好み。その前の歌が聞こえる間は通信が繋がっている演出は凄い良かったのでそのノリで繋げて欲しかった。
その時の歌。公式のが上がっていたので載せておきます。タイトル渚のバカンスっていうんですね。
ジャケットも昭和っぽくてグッド。歌われるのは戦闘中なのでサビの部分しか聞こえていなかったのですがとてもいい曲ですね。やっぱりロボットには歌も欠かせない。サントラも発売されているので是非。
■総括
少年少女がロボットに乗り込み...というのはガンパレやマブラヴあたりがバイブルですがまた一つカラス的ゲーム史に名を刻むゲームが現れたのはとても嬉しいです。
ただその文脈に並べるにはいくつか足りないところがあるのは確かです。冒頭でぼくらのとかの方が近いかもと言ったのもその辺りが原因です。
ちょっと語らせてもらいます。
・強烈な絶望感の無さ
上記2作品は人口がとんでもなく減っているので女子供でも戦わなければいけないということでジュブナイル的展開に持ち込んでいます。どっちもユーラシアは壊滅していてアメリカが好き勝手やっているという共通点もありますね。
本作は人類が15人くらいになっているのでユーラシア壊滅とかいうレベルではないのですがもう終わったことなので絶望という感じはありません。「ぼくらの」もゲームの結果として世界そのものが滅びるかもしれないというルールなので一瞬の緊張感はあるものの戦争の絶望感はありません。なので近いかな、と思った次第です。
他の年代が滅びているというのも登場人物がループ前提で話しているのでゲーム的感覚が強いです。ストーリーも大体のことは終わっていて、いかにしてここに至ったかという描き方をしているため登場人物に共感したりといった要素よりは記録映像を見ている感覚のほうが近いかもしれません。
・怪獣が不気味に感じられない
実際は単なる開拓機械なので問題はないのですが…マブラヴのBETAも資源回収しているだけという同じような設定なので惜しいです。
不気味さの演出にはとにかく機械的に人を殺すところを見せるのが手っ取り早いのですが本作でそれをやってしまうと評価が下がってしまう危険性もありそうなので何か他の演出があると良かったですね。デザイン自体は悪くなくアドベンチャーパートではそれなりに不気味さを醸し出してくれるのですが如何せん出番が少ない。
とにかく怪獣やべーじゃん!とならなかったですね。味方の死=ゲームオーバーなのでプレイヤー目線だとほぼ誰も殺していません(多分)
より和泉くんのジェノサイド行為が際立つ結果に。よっぽど彼のほうが怖い。憑依したりしてるし。
・戦争をしているわけではない
本編での戦闘は(一般人の目には)前触れなく始まり、1日程度で終わる出来事のためじわじわ疲弊していく戦争感がありません。
そもそも味方の戦力が機兵13機しかないためいわゆるセカイ系に近い感覚かもしれません。実際に箱庭セカイ系だったわけですが…。住民もAIであり本筋には関われない傍観者なので本当に「モブ」です。
その代わり単なるAIに過ぎないミワちゃんとかがあっさり記憶を消されてそのことに気が付かない…という背筋が寒くなるSF展開は良いです。
・戦うことに対する葛藤が無い
戦い自体はほとんどなし崩し的に始まって終わるのでもう戦いたくないよーっていう展開が無いです。機兵に乗る理由も前向き気味だしみんな仲がいいので暗い展開も無し。怪獣に対する恐怖心もなく闘争心に溢れています。
パイロットが少年少女である以上ここら辺は掘り下げてもいいところだと思いますが、本作はそもそも戦争を描こうとはしていないのでまあ無くても減点するほどではないですかね。
最後にうだうだ書いたものの全体的には素晴らしく、もっと長くこの世界に留まっていたいと感じさせられました。
ロボ、少年少女、正体不明の敵、と要素を切り取るとガンパレ系作品に見えますが実際は違いましたね。本作は美麗な背景を楽しみながら80年代SFにまったり浸かるのが正しい楽しみ方です。これだけごった煮闇鍋にしながらも投げっぱなしな部分がほぼ無いのも脱帽。
素晴らしいゲーム体験をするのに3Dもオープンワールドも必要ありません。
美しい後光に舌鼓を打ちながら貴重な時間を過ごしましょう。
「無敵の女子高生は、今時ロボットにだって乗っちゃうんだから!」